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第九章 現実と真実⑦

 女は、一瞬、何が起きたのか分からないようだった。がくがくと顎を揺らしながら、その目玉が飛び出して今にもこぼれ落ちてしまうのではないかと思うほどに、血走った瞳をかっと見開きながら、祈のほうへと振り返る。 「っ、なに……あんた」 「落ち着いて」 「離しなさいよ! ねぇ!」  祈は、振り乱す女の腕を押さえ、そっと、その手からナイフを奪い取った。その間に、男女カップルにちらりとアイコンタクトをし、二人は、急いでその場を離れた。 「ねぇ! ちょっと! 離して!」  前へ前へともがき進もうとする彼女の身体を、祈の細い腕が封じる。 「ねぇ! ほら! なんで……っ」  女は彼ら二人が消えたあとと、祈の顔を交互に振り返る。 「なんでっ、聞いてくれないの……?」  そして、先程までの激しい威勢がうそのように、その場に、がくりと崩れ落ちた。

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