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第九章 現実と真実⑩
まさか、と思った。最初は、見間違いだと思った。気になって、二人のあとをつけてみた。やはり、彼と仲睦まじい表情で歩く女性は、紛れもなく、彼女の親友だった。彼女は、くらりと、その場に倒れ込みそうになった。
――信じていたのに、と、思った。深い深い絶望が、ひとりぼっちの彼女に押し寄せた。彼も、親友も、彼女にとっては大切な人だった。彼女は、二人のことが、大好きだった。二人ともを、愛していた。
なのに、何故――? 何をどう間違ったら、こんな事態になるのだろう。何故、自分だけがここまでショックを受けなければならないのだろう。
――話し合いたい、と思った。二人から、直に話を聞きたかった。二人の間で、何があったのか。彼が、いったいどんな気持ちで、彼女に触れた手で、親友の肩を抱いたのか。親友は、どんな心境で、デートの待ち合わせ場所で、彼が来るのを待っていたのか。
しかし、二人は話し合いに応じてはくれなかった。一方的に連絡を断たれ、それきりになってしまった。また、彼女はひとりになった。
どうしたらいいのか、途方に暮れた。そのとき、夏祭りポスターが、彼女の目に留まった。SNSで検索をかけると、親友がその夏祭りにデートに行く、という投稿をしているのを、発見した。
――これしかない、と、思った。二人をびっくりさせないように、きちんと浴衣を着て、メイクもして、髪型も、きれいに整えた。祭りの客として会場に来たことを、彼らの目に、しっかりと示すために。そして、心の中で、ひっそりと――彼が、もう一度自分に振り向いてくれることを期待して。
しかし、二人は自分たちの目の前に突然現れた彼女を見るなり、ぎょっとして、おもわず後ずさった。その場から逃げ出そうとする仕草さえ、した。まるで、見てはいけないものを見てしまったような、畏怖と拒絶が、彼ら二人の顔に、はっきりと、浮かんでいた。
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