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第九章 現実と真実⑪
――ねぇ、なぜ、何故なの? なぜ、そんなにわたしを拒絶するの? わたしはただ、話したいだけなの。あなたたちから、話を聞きたいだけなの。それなのに、何故、そんなにわたしを怖がるの? わたし、何か、怖いことしてる? してないよね? そうだよね? だって、あなたたちのほうがよっぽど恐ろしいことしてるのに。なんで、わたしが悪者みたいな反応をするの?
――なんであなたたちは手を繋いでいるの? なんで、あなたは可愛らしく浴衣を着飾っているの? ねぇ、どんな気持ちで着付けをしたの? どんな表情で、その可愛い柄を選んだの? あなたの隣にいる男が、あなたにとっての親友の恋人が、可愛いねって、褒めてくれるとでも期待してた?
ねぇ、あなたたちが今いる幸せの足元には、わたしという屍が、いつも、死んだ目をして、あなたたちを見つめているの。ねぇ、あなたたち、それに気付いてる? 人を傷つけて、裏切って、拒否した先に手に入れた幸せだって、ちゃんと、分かってる? わたしを犠牲にして、わたしの心をゴミのように踏み潰して、そのゴミの上に、あなたたちが立ってるのよ。あなたたち、それに、気付いてる?
話し合うつもりだったのが、彼女の口からこぼれたのは、怒りだった。分かり合えない悲しみだった。突きつけられた拒絶だった。癒えない傷の、歪んだ赤い血の跡だった。
「あんたなんか死ねばいいのよ!!」
振り上げた。隠し持っていたナイフ。なんで自分は、こんなものを持ってきたのだろう――彼女はふと他人事のように感じた。そうだ――この話し合いが終わったら、きっとすっきりするだろうから――鞄の中に忍ばせておいた、日記帳代わりのノートを切り刻んでやろうと思った。ずっと、自分の孤独と絶望を吐き出していた、裏切られた闇を、ただひたすらに綴った、ノートを。
「ストップ」
掴まれた腕。止まる鼓動。彼女は、息を呑んだ。そして、振り返った。
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