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第十章 宝物①
祈たちは、祭りを楽しむ時間を再開した。子供たちはさすが好奇心旺盛というべきか――道路の両脇に建てられた色とりどりのどこまでも続く屋台の列に、目を輝かせ、ちょっとでも気になると足を止め、ちょこちょこと屋台を覗きに行った。碧志と祈も、子供たちと共に、様々な屋台を見て回った。
――金魚すくい
「あははっ、イノリってば下手っぴ!」
「うるせぇ。お前だって二匹しかとれてないだろうが」
――かき氷
「お前、それ何の味?」
「ブルーハワイ!」
「へぇ」
「イノリ、一口たべる?」
「あぁ」
「はい、あーん!」
「……ッ、つめてぇ」
――射的
「お前、ほんとに景品狙ってんのか。さっきから変なところばっかり当ててるぞ」
「もう! 分かってるよ! これ、むずかしいんだもん!」
「ちょっと貸してみろ」
「えぇっ、そんなカンタンじゃないよ? 残り一発しかないのに」
「いいから」
――パン!
「あ!」
「ほら、これ欲しかったんだろ」
「う、うん。ありがと、イノリ」
祭り会場を歩き回って一時間ほど経ったところで、職員が「いったん休憩にしましょうか」と言って、子供たちを通行人の邪魔にならないように、道の端に固めて座らせた。「トイレ行きたい人いる?」と、ひとりの職員が子供たちに聞くと、碧志と、あと他に二人の児童が手を挙げた。職員はその三人を連れ、トイレへと向かって行った。
碧志の小さくなってゆく後ろ姿を眺めていると、祈の隣に立っていた、別の女性職員が話しかけてきた。
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