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第十章 宝物③
「――ねぇっ、碧志くんこっちにもどってきてる?」
ひとりの少女が、並んで固まっていた祈たちの集団に走って戻ってきた。先程、碧志と共に、トイレに行った児童のひとりだ。
「いや、まだ来てないよ」と、女性職員が答える。
すると少女は、どうしよう、と青ざめ、いきなり慌て出した。
「なんか、碧志くん、いなくなっちゃって」
「どういうこと?」
少女の話を要約すると――こうだった。まず、三人の子供をトイレに連れていき、職員は外で待っていた。まず最初に碧志が戻り、その次に男の子が戻ってきた。そして残りの女子ひとり――今、話している彼女だ――が、トイレからなかなか出てこないので、職員が様子を確認しに女子トイレに入っていった。その間、残された碧志と男子は、トイレの外で話をしながら待っていたそうだが、碧志が急に何かを見つけた素振りをして「すぐ戻ってくるから」と、その場から走っていなくなってしまったらしい。ちなみに少女のトイレが長引いたのは、着慣れない浴衣の裾が引っ掛かって、うまくトイレを済ませられなかったからだった。
もう、トイレに行ってから三十分は経つ。少女の話を聞きながら――その場にいた子供たちも、職員たちも、そして――祈も、段々と焦り、そして心の中になんとも言えぬ不穏を募らせていった。
少女の話が終わったタイミングで、トイレに行っていた職員と男子児童が戻ってきた。二人はトイレ周辺を探したり、碧志の帰りを待ったそうだが、やはり彼の姿は見当たらず、祭り実行委員の拠点にも迷子として碧志が届けられていないか確認したが、いなかったそうだ。
「――俺、探してきます」
「私も行くわ」
その場にいた職員四人のうち、二人はその場に残り、もう二人は祈と共に碧志の捜索をすることになった。
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