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第十章 宝物⑥

 冷たい土に男の身体を押し付けると、祈は低い声で問うた。  「――アイツに何をした?」 「はっ、へっ、はっ……おおおおれは、別に、なにも、あの子が勝手についてきて――」  男の左指を反対方向――手の甲へと押し付けるように、力強く動かす。指の関節がべきべきべきと小気味いい音を鳴らす。うわあああ、と男が目の玉をひん剥いて、涎と嗚咽を撒き散らす。 「今度嘘吐いたら、お前の目ん玉このナイフでぶっ刺して血まみれにしてやる」  祈は、ポケットからナイフを取り出し――先程の彼女から取り上げたものだ――男の瞳の表面に触れるか触れないかまでの距離に、その刃先を近づけた。 「はっ、へっ、はっ、や、やめろ」  眼前に迫り来る刃物に、男の飛び出さんとばかりの目玉が、恐怖でがたがたと歪に揺れる。 「言えよ――アイツに何した?」  祈の冷たいブルーアイは、男の体温すべてを奪い尽くすほどに、殺気立っていた。 「はっ、いいいや、あのあの、あの男の子が……わ、わたあめ屋の前にひとりでいたから、こ、こえをかけて」 「――声をかけて?」 「で、わたあめ買ってあげようかっていったらいらないって言われて」 「で?」 「それでっ……ここここんな、大人の親切を断るなんてさささ最低だって、ぼくは、怒って、それで」 「……それで?」 「悪い子はお仕置きだって――がはあっ」  男が喋り終わる前に、祈は男の口元を殴っていた。草むらに落ちていた碧志のがま口財布に男の血が激しく飛び散り、禍々しく、その赤黒い跡を残した。

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