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第十章 宝物⑦

「ここのところずっと、アイツのあとをつけてたのもお前か?」  地を這うような祈の低音に、男がぶるぶると首を横に振る。 「ちっ、ちがうっ、それはほんとにっ」 「……本当だって証明は? 今すぐしろ。でないとお前を今ここで殺す」 「ひッ、やめてくれっ、離せっ、はな――」  気付けば、祈はその手からナイフを投げ出し、自らの両手で、男の首を絞めていた。きつく、きつく――祈の全身は、震えていた。怒り一色しかない祈の身体は、男の生命そのものを奪おうとしていた。 「あがっ……はぐッ」  男の身体ががくがくと操り人形のように不自然に揺れる。祈は構わず、男の首を握りつぶすぐらいの力を両手に込め、絞め続ける―― 「イノリッ! だめっ! 死んじゃう!」  ――と、祈の脇腹に、碧志がしがみつく。その衝撃で祈は正気を取り戻し、男の首から手を離した。  げほげほ、と男がその場にうずくまり、咳き込む。祈は、先程まで男の首を絞めていた自分の手を、呆然と見つめた。 「イ、イノリ……だいじょうぶ?」 「っ、あぁ……」  動揺しながら、碧志のほうへと振り返る。黒目の大きな瞳に、涙をいっぱい浮かべている。男に強い力で引っ張られたのか、髪や甚平の襟がぐちゃぐちゃに乱れ、口の端も切れて血が出ている。

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