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第十一章 願い③

「あ~、イノリやっぱりガリガリだな~。ほんとにちゃんとごはん食べてる?」 「うるせぇ。とっとと水に浸かって遊んでろ」  しっし、と碧志を手で払い、祈はプールサイドのベンチにどっかりと座った。  更衣室で着替えを済ませ、シャワーを浴び、プールの広場へと出ていくと、子供たちは先ほどにも増してテンションが上がり、次々とプールに飛び込んでいった。祈はというと、開始早々、子供たちの陽気さにエネルギーを根こそぎ奪われ、すでにプールに入る気力を失っていた。 「あっちぃ……」  八月ももう下旬だというのに、夏の暑さはなかなか弱まる気配を見せない。七月の最終日――夜中に散歩がてら、コンビニへと出かけたことを思い出す。あの日も暑くて眠れなかった。あのときコンビニで買った、キンキンに冷えたスポーツドリンクが恋しい。 「――っ!」  ――と、祈はいきなりその場から立ち上がった。そして鋭い目つきで、周囲の様子を観察する。しかし、大量の客で活気に満ちた夏のプールには、平穏と賑やかさが立ち込めるだけだった。 「……」  ――気のせいだろうか。今、誰かに見られているような気がした。

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