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第十一章 願い⑦
「碧志くんがよく話すイノリってさ、どんなひとなの?」
祈と出会ってまだ日が浅い頃、碧志は施設で一緒に暮らす子供のひとりから、こんなことを聞かれた。碧志が毎日毎日飽きもせず彼の話ばかりをしていたからだろう。
碧志は答えた。「えっと……口が悪くて、ぶっきらぼうで、いつも、絵描いてる」
――あとじつは、小説も書けちゃうんだ。そう、心の中で付け加える。
なにそれ~、と碧志の回答を聞いた子供はおかしそうに笑った。
「ぶっきらぼうなひとと一緒にいて、こわくないの? 碧志くん」
「え?」
「てっきり、そのイノリってひと、ニコニコしてやさしい感じなのかと思ってた〜」
――碧志はそこではたと気が付いた。そういえば、イノリの笑ったところって、見たことない、かも。
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