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第十一章 願い⑧

 祈は、感情が表に出ないタイプなのか、大抵は無表情だった。ときおり、怒ったり、呆れたり、はたまたリラックスした表情をすることもあったが、彼の心からの笑顔を、碧志は見たことがなかった。施設の子供とあの会話を交わしてからというものの、ますますそのことが、気になるようになってしまった。  ――イノリって、なんでぜんぜん笑わないんだろう?  だからつい、口をついて、あのときは、そのままを言ってしまった。 『……イノリって、あんまり笑わないね』 『そうか?』 『そうだよ~! イノリ、せっかくいけめんなんだから、もっと笑えばいいのに!』  彼の笑顔を見てみたい――碧志は次第に願うようになった。でも、どうしたらいいのか分からなかった。彼は毎日しつこく家に訪れる自分を追い出すことはしないが、大抵は本を読むか絵を描いていて、同じ空間にいる碧志にいっさい干渉してこない。自分を嫌っているわけではないだろうが、だからといって、自分を特別好いてくれているかは――正直、全く分からない。  どうしたらいいんだろう――碧志は考えた。ミキとリクトが夏祭りの話をしているのを見て、これだ! と思った。祈と一緒にお祭りなんて自分も楽しいし、きっと祈も喜んでくれるはず――しかし。 『却下』 『えぇっ!? なんで!?』 『人混み嫌いなんだよ、クソ暑いし』 『行こうよ~っ! ミホもリクトも行くって言ってたよ!』 『その二人と一緒にいけばいいだろ』 『やだっ! 僕はイノリといっしょがいいの! イノリと夏祭りに行きたいのッ!』 『うるせぇ、失せろ』  あっさりとその希望は打ち砕かれた。しかしその後祈が碧志の読書姿をデッサンするのを条件に、夏祭りに来てくれることになった。けれど、いざ蓋を開けてみれば、碧志は見知らぬ男に襲われそうになるというトラブルが発生。祈を笑わせるどころか、助けた碧志を掻き抱いて、彼はわんわんと泣き出した。作戦は失敗。ならば――と、今度は自分から条件を出して、祈をプールに連れて行こう、と思ったのだ。どうせなら、施設のみんなも誘おう。夏祭りで知り合ったメンバーだし、きっとそのほうがわいわいできて祈も楽しいだろうから――

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