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第十一章 願い⑨

 少し離れたところで、プールに浸かって大笑いしている祈の姿がある。子供たちと一緒に、とても、とても楽しそうに――その弾けた笑い声が自分の耳まで届くと、碧志は思わず声を漏らした。 「っ、やったぁ……!」  祈の笑顔を、見たかった。ずっとずっと、見たかった。彼がこんな風に笑う姿を、いつか、いつか必ず見たいと――碧志は、この世の誰よりも、願っていた。全身に鳥肌が立つ。よく分からない感情が胸の底からこみ上げてきて、何故か――涙さえ出そうになる。  碧志は、プールの流れに逆らうように、祈たちの元へ水中を目いっぱい駆けてゆく。彼らは、笑っていた。祈も、笑っていた。きらきらと、水面が反射して、彼らの姿がまぶしく、輝いて見えた。 「あ! おい! 碧志~! 今のイノリ見た!? すげー傑作だっ――」 「――イノリ!!」  碧志は思い切り叫んだ。叫んだ、その勢いのまま、祈の身体に抱き着いた。 「イノリっ、イノリっ」 「っ、どうした? いきなり抱き着きやがって」  祈が、愉快そうに笑いながら、くしゃくしゃと碧志の髪を掻き回す。碧志は目に涙をためながら、ぎゅっと、強く、祈の身体に腕を回す。 「イノリっ!」  何度も自分の名前を口にする碧志に対して、祈が疑問の表情を浮かべる。「……碧志?」 「っ、……笑ったね!」  碧志は伝えたい。たくさん、いっぱい、伝えたい。でも、分からない。分からない。心の中に、たくさんの嬉しさと、ちょっとの切なさと、すごい幸せと――色んな気持ちがこみ上げてきて――うまく、ことばにできない。でも、でも―― 「やっと、やっと――笑ったね!」  涙を流しながら、碧志が笑った。  祈が一瞬、目を丸くする。そして―― 「――あぁ!」  その青い瞳を優しく細めて――美しく、眩しく、笑っていた。

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