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第十一章 願い⑩
――数時間後。
「ねぇイノリ、ほんとごめんってば~」
「……」
「だって知らなかったんだよ~。まさかイノリのケータイがさ、海水パンツのポケットに入れてあるなんて」
「……」
「でもいい機会だしさ! スマホに乗り換えなよ!! いまどきガラケーっておじいさんかイノリぐらいしか使ってないもん!」
祈は立ち止まり、振り返った。自分のあとをしつこく追いかけてくる碧志は、まだ乾ききらないその黒髪からポタポタと水滴を地面に垂らしながら、困り眉で祈を見上げている。
「……別に怒ってねぇよ」
「えーっ! ぜったいうそ! だってぜんぜんしゃべらなかったじゃん」
「……」
「でもほんと、ガラケーは時代遅れだからさ! 次はぜったいスマホに――」
「っ、あぁ~、もう!!」
祈は苛立ちを抑えきれず、ボリボリと首元を掻く。
「お前の言いてぇことは分かった。とりあえず、明日ショップ行くから付き合え」
「っ! うん!」
祈は再び歩き出す。碧志はそんな彼の横にぴょんっと移動し、二人一緒に、鮮やかな夕日を眺めながら帰った。
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