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第十二章 約束①

「――ねぇイノリ! どの機種にする!? やっぱりアイフォン!?」 「お前、もうちょっと静かにしろ。騒ぐな」  プールの翌日、祈と碧志はスマホショップを訪れていた。碧志は、朝からとにかくテンションが高く、祈の新しいスマートフォンを選びにいくというのに、まるで自分が新しいゲームを買い与えてもらえるような、そんなワクワクと興奮が抑えられないようだった。  碧志が言っていた通り、祈は今までガラケーを使っていた。別に、彼自身が、機械に疎いわけではない。ただ、必要最低限の機能さえあればよかった。祈が連絡を取る相手は、出版社ぐらいしかない。(老爺は直接会いに来る)わざわざスマホにしなくても、ガラケー一つで十分事足りる。だから今までずっとガラケーを使っていた。ただ単純に、それだけのことだった。 「お客様、今日はどんなご用件で?」  オレンジ色のスカーフを纏った女性店員が、スマートフォンの機種見本のコーナーをうろついていた祈と碧志に声をかける。 「あー、えっと……新しくスマホに買い替えたくて。ずっと使ってた携帯を水没させてしまったので」 「左様でございますか」  すると店員は朗らかな笑みをたたえながら、何種類もあるスマートフォンの機種の性能や特徴を順々に説明していってくれた。けれど、今までガラケーを使い込んでいた祈からすると、どのスマートフォンも良さそうに見え、だからこそどの機種にすればいいのか分からず、なかなか選べずにいた―― 「イノリ! 僕、これがいいと思うっ!!」  すると、そんな祈を導くかのように、碧志が、ある一台のスマートフォンを指差した。それは、今年の夏の新作で、鮮やかで優しいブルーがぱっと目を引く機種だった。

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