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第十二章 約束②

「……なんでこれ?」 「だって! イノリの目の色といっしょ! ぜったいこれがいいよ! スマホと色がおそろいってかっこいいよ!」  碧志が興奮気味に力説するのを、女性店員がくすくすと笑っていた。 「でも、たしかにこのお色、お客様にピッタリだと思いますよ」 「そう――ですかね」 「はい」  女性店員が、にっこりと微笑んで頷く。彼女の隣で、碧志もにっこり微笑んでいる。  ――これはもう、決まりだな。  祈は、心の中で頷いた。 「じゃあ、この機種でお願いします」  在庫確認のためバックヤードに行っていた店員が戻ってくると、カウンターに並んで座る祈と碧志に、深々と頭を下げた。 「お客様、大変申し訳ございません。只今、こちらの機種が大変人気で、今うちの店舗に在庫がない状況でして」 「そうですか」と、祈が答える。 「ちょうど一週間後の、九月一日に再入荷する予定ですので、また後日取りに来ていただけますか?」 「分かりました」 「わあっ! いいねぇイノリ! ちょうど誕生日にあたらしいスマホゲットできるじゃん!」  隣に座る碧志は、やっぱりうきうきしていた。祈もそんな彼の姿を見て、微笑んだ。「そうだな、タイミングばっちりだ」 「あの、でも、その間携帯電話が手元にない状態になりますが、大丈夫でしょうか? ご家族や、仕事先の方とのご連絡が――」  店員が、下から伺うような口調でおそるおそる確認を取る、が。 「あぁ、はい」と、祈はあっさり答えた。特に問題はない。 「大丈夫だよ! イノリ、でんわするお友だちなんて僕以外いないもんね!」 「――お前、ちょっと黙れ」  この日は、機種変更のための事前手続きのみをして、ショップをあとにした。

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