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第十二章 約束④

 少年が目を丸くする。「……どうして?」 「リクトから聞いた。お前、夏休みの宿題ほとんど手つけてないらしいな」  碧志の瞳が大きく見開く。なんで知ってるの、と、彼の顔が言っている。 「始業式もうすぐだろ? それまでにちゃんと全部終わらせろ」 「……う、うん。でも」  碧志は、戸惑いながらも、じいっと、祈の瞳を観察する。 「――それだけ、じゃない……よね?」  祈はひと呼吸おいて、答えた。 「……あぁ。ちょっと、やることができたんだ」 「そう、なんだ……」  沈黙が訪れた。祈は何も言わなかった。それまで考え込むような仕草をしていた碧志は、なにか決心したかのように、勢いよく顔を上げた。 「――ねぇ! 僕かならず夏休みの宿題ぜんぶ終わらせるから……だから、八月三十一日は、イノリのおうち、あそびに行ってもいい?」  八月三十一日は、夏休み最終日。翌日の九月一日から、碧志は小学校の二学期が始まる―― 「せっかくさいごのお休みだし、僕、イノリと過ごしたい!」 「――分かった。俺もそれまでに、ちゃんと全部済ませておく」 「わーい! やったぁ! じゃあ! 指切りげんまんね!」  碧志が小指を立てる。祈は腰を屈めて、碧志の小指と自分の小指を絡めて、上下に振った。 「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます!」」  ――二人は互いの目を見つめ、大きく唄い、笑った。「「指切った!」」

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