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第十二章 約束⑥
緩やかに空を横切る潮風に身を委ねるように、地平線を覆う波が、ざあ、ざあ、と、穏やかに行ったり来たりを繰り返している。祈は、ときおり海水が足元まで押し寄せてくる砂浜を歩きながら、その短い首を捻って、顔を上に動かした。
――視線の先には、母親がいた。祈は、母親と手を繋いで、海沿いをゆっくりと、静かに、歩いていた。ふたりだけの時間だ、と祈は心の中で、こっそりうれしく思った。
「ねぇ、おかあさん。ここがおかあさんが昔すんでたところなの?」
「そうよ」と、母親は答えた。「お母さんはね、この海街で生まれて、育ったの」
祈は海側へと目線を動かした。透き通った美しい青が、祈の視界のどこまでもを、埋め尽くしていた。地平線を照らす太陽光で、水面がきらきらと光って、海全体が、まるで宝石みたいだった。
「うみ、きれいだね!」
「でしょう? せっかくだから祈にも見せてあげたかったの。今日は祈のお誕生日だからね」
「うん!」祈は笑ってうなずいた。
この日――祈は五歳になった。母親と過ごす、五回目の誕生日だった。
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