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第十二章 約束⑦

 じっと海を見つめる祈にならって、母親もそちらへ顔を動かした。そして、目の前に広がる美しい青を眺めながら、くすりと柔らかな微笑みをこぼした。 「……すごく、懐かしい」  波の穏やかな鳴き声が、浜辺を歩く親子の鼓膜をやさしく揺らす。 「お母さんね、この浜辺で、昔、写真を撮ったの」 「……どんなしゃしん?」 「成人式の日にね、仲の良い友達何人かとね、この海に来たの。振り袖なのにね、ふふっ、せっかくの着物をちょっと汚しながら……でも、なんだか、もう……すっごくすっごく、楽しくって……。自分の昔のこととか、なんでもないような懐かしい思い出とかをね、色々、思い出して……友達と、たくさん、たくさん、喋って……でも、いつまで喋っても物足りないぐらいで……気付いたら、夜になってた」  祈は、母親の台詞の意味を細かく理解はできなかったが、『成人式』の話をする彼女の姿は、幼い祈の目に、とても幸せそうに映った。だから、こう言った。 「ぼくもおかあさんと写真とりたい! 成人式っていつやるの?」 「成人式は毎年あるけど、祈の番はずっと先なのよ」 「ずっと先って、いつ?」 「二十歳よ。あと十五年も先なのよ」 「えっ! そんなに先なの!? ぼく、まてないよ!」 「ふふっ、大丈夫よ。きっと、あっという間に迎えるから」 「ほんとう?」 「えぇ、ほんとうよ」  海を見つめる母親の横顔に、水面のきらきらが反射して、彼女の頬がやさしく光っていた。彼女の青い瞳は、どこか切なさと憂いを秘めたような表情で、目の前に広がるどこまでも美しい海と、彼らにしか見えない言葉や感情をやりとりするかのように、愛おしい視線を交わしていた。 「……楽しみだなぁ。祈は、どんな男の子になるんだろう。どんな風に成長するんだろう」

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