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第十二章 約束⑨

 ――祈は砂浜に座っていた。青い空と海を、真正面から見渡すように、ひとり、座っていた。  広大な青の視界の中、祈の目線の先には――ひとりの少年がいた。少年は、海沿いをてくてくと歩き回りながら、時折こちらに振り返っては、大きく手を振ってくる。  ――イノリ! ねぇ、すごいよ! 貝がらがいっぱい!  祈は、頷いた。そりゃそうだ。ここは海だからな。  ――すごいね! 海って、初めて来たけど、すごい! きれい!  祈の手の中には、鮮やかなブルーのスマートフォンがあった。祈はスマートフォンを掲げて、少年にカメラのピントを合わせた。  祈は、少年の名を呼んだ。少年は、花火が夜空に舞い上がる瞬間のような、光はじける笑顔で振り向いた。潮風でゆらめく水面が、青空に浮かぶ太陽の光で眩くきらめいて、少年の純粋無垢で幸福な姿が、より一層、美しく輝いて、鮮明にくっきりと浮き立って見えた。  祈は、カメラのシャッターを、切った。そして、微笑んだ。  ――ねぇ! イノリ!  少年が、叫ぶ。なんだ、というふうに、祈は軽く首を傾げる。  ――また、いっしょに来ようね! うみ! 絶対来ようね!  あぁ、もちろんだ――と答えようとした。祈は口を開いた。しかし、映像は、そこで、途切れ――祈は現実の世界へと引き戻された。

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