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第十二章 約束⑫

 ――あぁ、きれいだな。  窓枠がそのまま額縁になってもおかしくないほどの――美しくまぶしい、見事な茜空だった。オレンジ、赤、その間にわずかに見え隠れするうすいピンクが――互いに混ざり合い、溶け込み、消えては現れ、現れては、消え――どこか懐かしさを感じさせるような、和やかなグラデーションを生み出している。そんな夕焼けを無言で見つめる彼の青い瞳に、橙色の光が柔らかく反射した。  彼が流した涙の跡が、きらりと、光った。  目の前に広がる夕日の温かさが、ぼんやりと考え事をする祈の身体の隅々まで、じんわりとやさしく滲み、地上を照らすオレンジ色の光が、彼のその心の内側にまで差し込んだ。祈は、より一層、不思議な感覚に陥った。   ――祈は、最後まで、このとき流した涙の理由が、分からなかった。  なぜなら彼が今までに流した涙は、絶望や悲しみから訪れる、哀情ゆえのものだったからだ。彼にとって涙とは、自らが追い詰められたときに流れる、心の痛みや傷そのものだったからだ。  幸福ゆえに流れる『愛情』という涙を、十九歳の彼は、まだ、知らなかった。

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