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第十三章 八月三十一日①
八月三十一日。碧志は何故か大量の荷物を抱えてやってきた。パンパンのリュック、そして両手に掲げられたトートバッグは、こんもりと膨れ上がって今にもあふれ出しそうだ。
「……お前、どうしたんだ、この荷物」
「えへへっ! 今日はねっ、イノリのおたんじょうびパーティーやろうと思って!」
「は?」
「ほらっ、イノリ明日おたんじょうびでしょ? でも、僕は学校はじまっちゃうし、イノリも新しいスマホ取りに行かなくちゃいけないし、たぶんきっと、しっかりお祝いできないから――」
床に、とすん、と荷物を下ろすと、碧志は満面の笑みを浮かべて、言った。
「だから、一日はやいけど、フライングでハッピーバースデーしよう!」
碧志に指示され、祈は、部屋の壁一面に色とりどりの飾りを付けていく。
「お前、こういうのは、自分で全部準備したのか?」
「ううん! みんなが手伝ってくれたの! イノリが誕生日もうすぐなんだって言ったら、じゃあパーティーしてあげないとねって」
今朝、碧志は施設の子どもたちや職員らに「ちゃんとお祝いしてこいよ!」と言われて送り出されたらしい。
碧志は、本当に――周囲の人間に、恵まれている。祈は、心の底からそう思う。夏祭りの日、涙ながらに、自分に対して感謝の意を伝えてくれた職員の姿を思い出す。
『ありがとうございます。碧志くんを――救ってくれて』
きっと自分は――きっかけを作ったに過ぎない。そうでなければ、彼は、こんなに健やかに豊かに育っていないはずだ。ずっと、彼の周りに彼を思い遣る人間がいてくれたからこそ、碧志は今、心からの笑顔を見せてくれているのだ。
「碧志」
「なあに?」
「お前にとって、家族って何だ?」
碧志の動きが止まる。
「……」
「お前には、親がいない。でも、今、ちゃんとお前の周りには人がいる。あの人たちは、みんな、お前の家族だ」
「……かぞく?」
「そうだ。血の繋がりとかじゃない。そんなもんは、どうでもいい。だから、忘れるな」
祈は、言った。いつか必ず、彼に伝えようと思っていた、大切な言葉を。
「お前は、ひとりじゃない」
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