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第十三章 八月三十一日②

 碧志が、その黒目がちな瞳を、ふわりと大きく見開いた。 「困ったときは、みんなに、頼れ。遠慮なんていらない、ちゃんと、助けてもらうんだ。で、お前もみんなを助けてやれ。そうやって――助け合って、生きていく。それが、家族ってやつだ」  碧志は、思案しているようだった。その小さな頭で、必死に、今祈が伝えた言葉を噛み砕き、理解して、自分の頭の中に叩き込もうとしているのがよく分かる 「……うん。わかった!」  真剣に――そして、やさしく微笑んで答える碧志に、それでいい、と祈は伝えた。  ちゃぶ台の中央に、大きなスイカがひとつ、置かれている。碧志は手をぱちぱちと叩きながら、叫んだ。 「ハッピーバースデー! イノリ!」  スイカは、祈が用意したものだった。以前、老爺にもらったスイカを丸ごと完食した碧志。今日は夏休み最終日ということで、昨晩、スーパーで買っておいたのだ。 「さいきん、アオ来ないね」  スイカをむしゃむしゃと頬張りながら、碧志が喋る。 「まあ、元々野良だしな」祈も、スイカにかぶりつく。「それにあいつは、お前以上に気まぐれだからな」 「えっ」  碧志が固まる。半開きになった口から、スイカの種がぽろりとこぼれ落ちた。それを見た祈は、わざとらしく首を傾げた。 「……なんだお前、ひょっとして、自分が気まぐれ野郎って自覚、なかったのか?」  こくこく、と弁明するように急いで頷く碧志。 「……やっぱアホだな、お前って」  スイカをかじりながら横目で碧志を見る。 「っ、う〜!! イノリだっていじわる野郎のくせに!」  祈は軽く笑った。「そうだな、俺は意地悪だ」

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