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第十三章 八月三十一日③

「僕からイノリに、プレゼントがありまーす!」  スイカを食べ終えると、碧志がバッと手を挙げて、立ち上がった。そして部屋の隅に置いていたリュックから何やらごそごそと取り出している。 「はいっ、イノリ! ハッピーバースデー! 二十歳のおたんじょうび、おめでとう!」   碧志が笑って差し出したそれは――色紙だった。  青色のペンで、中央に大きく『イノリお誕生日おめでとう!』と書かれ、その周りには、施設の子どもたちや、職員からの寄せ書きメッセージがその余白を埋め尽くすように、たくさん、たくさん、綴られている。そこには、いつか見た折り紙の花飾りも、一緒にくっついていた。 「……っ、お前、これ……」 「みんな、お祝いしたがってたんだ! だから、書いて渡すことにしたの!」  色紙を持つ祈の手が、かすかに震える。心の奥深くが、ゆらぎ、揺れ、熱いものがこみあげてくる。メッセージの中には『生まれてきてくれてありがとう!』という文字もあった。  二十歳になったら、死のう――。  そう決意して、三年。本当は、明日、自分は死ぬはずだった。最後まで、生きる意味など見出せないまま――ひとり、この世から消えるつもりだった。  ――孤独だったからだ。ひとりきりだったからだ。他人なんてものに期待せず、全てを拒否して、ひとりだけの世界で、虚無と空白と絶望に押しつぶされそうになりながら、自問自答を繰り返してきたからだ。 『――俺が生きてる意味って、なんだろう?』

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