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第十三章 八月三十一日④

「イノリも、みんなの家族だよ!」  ――家族。  潤んだ視界の先に、微笑む碧志がいた。 「……っ」  その瞬間、祈の青い瞳に、一筋の光が差し込んだ。その口が、身体の内側からこみあげる何かに(こら)えるように、くしゃりと歪んだ。  ……そうだ。自分は、きっと、誰かと繋がりたかったんだ。これまでの人生、誰にも頼らず、ひとりで生きてきた。でもきっと、ずっと、心のどこかで――大切な誰かとの、繋がりを求めてた。自分が愛した誰かと、何かを、分かち合って、生きたかった。ほんとうは、目の前の誰かのために、生きたかった。だから、死にかけのアオを、本を盗もうとした碧志を――自分は、助けたんだ。伸ばしたその手の先に――自分が、なにより求めているものがあったから。 「イノリと僕は、もう、ずっとずっと、家族だよ!」  碧志が、祈の細い身体をぎゅっと抱き締めた。 「っ、あぁ」  祈は、気付けば、涙を流していた。肩を震わせて、くしゃくしゃに顔を歪めながら――少年の腕の中で、泣いていた。  ――何故、人は、ひとりでは生きていけないのだろう。何故、誰かに愛されたい、と、求められたい、と、助けてほしい、と、助けてあげたい、と――心のどこかで、願いやまずにはいられないのだろう。

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