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第十三章 八月三十一日⑨
「そうだ! 僕がイノリにインタビューしてあげるっ!」
「は?」
碧志が自分の拳をマイクに見立てて、祈の前にずずいと突き出す。
「はいっ! イノリさん、あしたで二十歳になりますが、今どんなきもちですか?」
「――そう、だな。まぁ、わるくない気分です」
「碧志くんからのプレゼントはうれしかったですか?」
「……はい。嬉しかったです」
「イノリさんは、碧志くんのことどう思っていますか!?」
「……うるさいガキ」
「えっ……じゃ、じゃあ! 碧志くんと過ごすじかんはたのしいですか?」
「……正直、最初はかなりうざかったけど」
ガーン! と効果音がつきそうな、ショックを受ける碧志の顔。
「でも、今は――結構楽しいと思ってる自分も、います」
えっ! と予想外の言葉に、目をきらきらさせる碧志の顔。
「ずっとひとりで生きてて、あんまし困ったこともなかったけど……ふたりっていうのも、いいものだなって、碧志くんが教えてくれました」
「……」
「おい」
「……」
「碧志?」
黙ってしまったのか、碧志の返答がない。見ると、俯いた彼の顔はゆでだこのように真っ赤っかで、金魚みたいに口をパクパクさせている。
祈は、そんな彼を眺めては、ため息混じりに言った。「……おい、ちゃんと答えたぞ」
――途端、ぎゅううう、と、碧志が祈の胸に抱き着いてきた。
「イノリ……っ」
胸の中から、碧志が顔を上げる。
「っ、僕も、イノリと過ごすじかん……すごく、すごく、たのしかったよ!」
触れた碧志の身体から、確かに、その熱い体温が、鼓動が、優しさが、伝わってくる。
「だからっ、これからも……ずっと、いっしょに――」
祈は碧志の脇腹に自分の腕を通すと、彼の身体をひょいと、抱き上げた。そして、彼の頭を撫でながら、耳元でこう言った。
「――当たり前だ、バーカ」
それは、とても、優しい声色だった。
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