114 / 180
第十三章 八月三十一日⑪
「俺からもお前に渡すものがある」
祈は立ち上がって、押入れからあるものを取り出し、碧志に手渡した。
「っ! イノリ……これ……」
祈が差し出したそれは、碧志の読書姿をデッサンしたもの――その線を下書きとして、碧志の姿は、青一色に、彩られていた。影になる部分や濃い色の箇所は青を強く表現し、逆に景色の中で明るい部分は淡く、優しい色合いの青を使っている。
「かなり遅くなったけど――誕生日プレゼント。ケーキだけじゃしょぼいからな」
碧志は画用紙を手に、震えながら、目に涙をにじませている。
「っ、あり、がとう……イノリ」
「……うん」
絵を眺めながら、碧志はやわらかく呟いた。「……そっかぁ」
「イノリは、哀衣ちゃんと……おともだちだったんだね」
哀衣は『青』の主人公である少女の名だ。
「……そうだ。彼女に描き方を教わったんだ」
「っ、すごく、すごく、すてきだね。これ……」
碧志は顔を上げ、泣きながら、笑った。
「僕……っ、一生のたからものだよ!」
碧志が満面の笑みを浮かべる――最大の幸福をにじませた少年の姿に、祈も頬をほころばせて、美しく微笑んだ。
ともだちにシェアしよう!