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第十三章 八月三十一日⑫
――夕方、碧志が施設へと帰る時間がやってきた。
「っ、やっぱり、帰りたくないよ」
「駄目だ。ちゃんと暗くなる前に帰れ」
「うぅ……っ、だって、だって……っ!」
碧志は泣きじゃくり、祈の足元に抱き着いてなかなか離れようとしない。祈は、準備しておいた茶封筒を手に取ると、碧志の頭にぽんと乗せた。
「これ、おつかいな」
「……え?」
「これ、ポストに投函してこい。んで、施設に帰る。それが俺からの宿題だ」
碧志が自分の頭に乗せられたそれを手に取り、不満げに口を尖らせた。
「……イノリ、自分で出しに行くのがめんどくさいだけじゃないの?」
「うるせぇ。黙って言うこと聞け、クソガキが」
碧志が茶封筒をまじまじと観察する。そして宛名を読んだ彼は、はっと目を見張った。
「イノリ、これって……!」
祈は、黙って頷いた。
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