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第十四章 監視②
福本が中学にあがるタイミングで、両親は離婚した。家ではほとんど喋らず、家族そのものに興味のなかった父は、あっさりとまだ子供である福本と母親を捨てて出ていった。母は、浮気されたと最後まで喚いていたが、福本は違うと思っている。父は幼い福本にとっても、どことなくつかみどころのない人だった。彼が、誰かや何かに、興味や特別な感情を抱いているさまを、福本は見たことがなかった。学生時代に出会い、母の猛烈なアプローチにより、付き合い、そのうちに母が妊娠したので、そのまま流れで結婚した――と、あるとき、珍しく父が自分の過去を話してくれたことがあった。そのとき福本は、あぁ、この人は母親に人生を付き合わされているのだな――と、思った。だから、彼が家を出て行っても、心のどこかで納得している自分もいた。
けれど、父が出ていったことで、一人息子の福本にかかるストレスは以前の比ではなくなっていった。家で母と二人きり――母は離婚後、目に見えて情緒不安定になった。ヒステリックに喚いたり、意味不明に福本を怒鳴りつけることもあった。福本は、毎日学校から帰るのが億劫だった。一度だけ、唯一仲のよかったクラスメイトである友人の家に逃げ込んで外泊したことがあった。しかし、次の日、しぶしぶ家に帰って食事を摂っていると、向き合って食べていた母が、いきなり叫び出し、食器を福本に投げつけ、泣き散らし、収拾がつかなくなったので、外泊したのはそれきりだった。
――そんな辛い時間を支えてくれたのが、本だった。本を読んでいる時間だけは現実世界での醜い出来事をすべて忘れさせてくれた――登場人物と一緒に、世界を冒険した。空も飛べたし、頼もしい仲間もいた。そのうちに、自分も物語を作ってみたい、と思い始め、日記を書いていたノートに思いつくままを書き殴っていった。
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