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第十四章 監視④

 三十歳、作家としてデビューした。心の底から嬉しく、そして、安堵した。幼い頃からの夢が叶った。こんな自分でも、どれだけ家庭環境に恵まれなくても――ちゃんと、やりたいことができるし、成功だって、自分の手で掴めるんだ、と。神様は、何だかんだちゃんと自分を見てくれていて、そして、救いの手を差し伸べてくれるのだ――と。  けれど、本を出しても、思うようには売れなかった。福本の物語は、美しく、まぶしく、最後には希望や幸せを感じられるような、そんなストーリーが多かった。幼い頃から、そういうハッピーエンドに支えられてきたからだ。どれだけ売れずとも、編集者に、作風を方向転換しましょうと進められても――それでも、福本には、確固たる自信があった。未来は、いつだって明るいんだと――世の中は、大衆は、常に希望を求めているし、実際そうなのだ――そう、思いたい自分がいた。母のあの肉片が今も自分を追いかける。それを、消し去りたかった。

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