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第十四章 監視⑤
そして、五十歳。芥川賞を受賞した。ノミネートされたときは正直信じられない気持ちだったが、受賞が決まったときには――ついにこの瞬間が来たのだ、と福本は確信した。自分が生み出したこの素晴らしい物語に、希望を見出せるハッピーエンドに、世の中の人間が酔いしれる瞬間がやってきたのだ、と。デビューして二十年、ようやく訪れた歓喜の瞬間だった。
――しかし、蓋を開けてみれば、同時受賞した十三歳の少年のほうが話題になった。記者会見では、皆、ちらちらと自分の隣に座る、か細い少年を見つめていた。
何故だ――? 福本は思った。自分は、こんなにも、重厚で、鮮やかで、美しい物語を描いているのに――世間は、こんな人生経験の浅い少年ばかりに注目し、評価するんだ? 会見中――青い瞳と目が合った。少年の目はビー玉のように澄んでいて、そして――五十歳の老いた福本を、見下し、嘲笑していた。
少年が、テレビで紹介されたりインタビューに答えている姿を見ると、福本は少年の喉を掻っ切ってやりたい、と、自らの喉を掻きむしりながら思うようになった。脳内で、ずっとあの青い瞳が自分を見つめ、冷ややかに監視していた――嫉妬で夜も眠れず、空っぽな腹を抱えながら、つんと鼻につく胃液を洗面所に向かって吐き続けた。あの青い目が――自分を見下した表情が、網膜の裏に、こびりついて離れない。止まない。監視、嘲笑、罵倒――喉が、苦しい。喘ぎ、吐き、混乱から、目を瞑る。布団の中で隠れるように、震え、頭を、抱える。母の絶叫が、冷ややかな青い瞳が、血まみれの肉片が、福本の黒い視界を埋め尽くす。嗚呼、早く、早く、早く――あの少年を殺さなければ――俺は、また、正気を失ってしまう。
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