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第十四章 監視⑥

 五十五歳、作家と兼業しながらずっと勤めていた会社から依願退職を勧められ、追い出されるように無職になった。会社の経営不振によるものだった。いきなり職を失った福本は、年齢を問わずに雇ってもらえる、運送業を始めた。毎日来る日も来る日も、トラックを走らせ――昼夜問わず、ハンドルを握った。  運送業を始めて一年――深夜、休憩をしようとコンビニの駐車場にトラックを停め、煙草をふかしていたときだった。コンビニのドアが開き、ペットボトルを持った青年が、店から出てきた。青年が、ふとこちらを向いた――青い瞳。福本は震え上がった。あの、記者会見の少年が――今、自分の目の前にいる。福本の視界に、一筋の光が差し込んだ。  ――運命だと思った。これは、神様が与えてくれたチャンスだ――と、今度こそ彼を殺すんだと。そうすれば、俺の人生はようやくハッピーエンドを迎えられる。俺は、やっと、やっと、あの冷酷な青い目から、解放されるのだ――  そこから、青年のあとをつけ、彼がコンビニの近くのアパートに住んでいることが分かった。福本はすぐさま入居したいと問い合わせ、大家の老年爺(ろうねんじじい)から、二階に住んでいる青年の真下の部屋の鍵を受け取った。ろくな審査もなく、すぐに部屋に通された。寂れた和室が一部屋、昭和を思わせる古びたトイレと風呂場と台所――たったそれだけの、簡素な間取りだった。どうせたっぷり印税を稼いでいるだろうに――青年はこんな古びた環境に身を潜めているのだな、と思った。

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