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第十六章 碧色の涙①

 福本が去った後――ひとり、和室で、何度も刺された腹を抱えながら、祈は吐血した。呻き、震え、激痛のせいでその場から動けない。視界が白んでいく。意識が遠のきかける――まずい、はやく――救急車か警察を――その単語が脳内を過り、そして、今、携帯電話が自分の手元にないことに――そのとき、はたと、祈は気が付いた。  ――先程、福本が吐いた台詞。 『一ヶ月前、コンビニでたまたまお前を見つけてから……ずっと、お前を監視してた』  ――六日前の、店員の言葉。 『只今、こちらの機種が大変人気で、今うちの店舗に在庫がない状況でして』 『ちょうど一週間後の、九月一日に再入荷する予定ですので、また後日取りに来ていただけますか?』  ――三年前の、自分の決意。 『――二十歳になったら、死のう』  ――夏祭りで交わした、碧志との会話。 『悪いことしてなくても、そんなひどい目にあっちゃうの?』 『……そういうこともある』  これまでの全ての事象が、現実での体験が、祈が過ごした時間の全てが――鋭利な刃物となって、祈の心臓の中央部を抉るように、深く深く、突き刺さる。  思わず、笑いがこみあげてくる。くつくつと、場違いに、血まみれの和室に、青年の笑い声が響く。「くっく……は、ははっ!」

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