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第十六章 碧色の涙⑥

 こうして思い返してみると――自分の人生は、ひどく孤独なものだった。  思えば、暗い和室で、母親の変わり果てた姿を目にしたあの瞬間、祈の生き方は、もうすでに、決まってしまったのかもしれない。  未来には、期待しない。してはいけない。他人にも、期待しない。けっして、心を許さない。そもそも、許す必要なんて、どこにある? 信じられるのは、自分のこの瞳に映し出される目の前の景色と、己の細胞が教えてくれる、感情――それだけ。それこそが、であり、十九年間、今の今まで過ごしてきた、祈の人生そのものだった。  ――もしかしたら、こんな自分の生き方を、他人は不幸だと呼ぶのかもしれない。けれど、祈は、祈自身は、自分のことを不幸だとは、一度たりとも思ったことはなかった。強がりでも何でもなく。あぁこれが自分の人生なのだと――常に俯瞰し、認識し――そしていつも、目の前の現実の、あるがままを受け容れてきたからだ。  ――碧志。 「はっ……」  気付けば、祈の碧眼から、涙が溢れている。もう刺された箇所の痛みなど感じない。ただ、胸が――熱い。とろりと、温かい液体を注ぎ込まれたように、心が温かい。あぁ、なんだ、これは――薄れゆく記憶を、祈は、思い出していた。母親との過去を、碧志との未来を、夢で見たあの日。鮮やかな夕焼けを眺めながら、ひとり、涙を流したあの日。ちっとも悲しくないのに、涙があふれてあふれて止まらなかったあの日。あのときと――同じだった。ふわふわと、心地よく、意識がぼやけていく。あぁ――俺は――

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