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第十七章 静と死①
彼は、ひとりだった。
彼は、幼い頃、母親と一緒に生活していたが、ある日、母親が死んだ。トラックに轢かれて、呆気なく、死んだ。
彼は、ひとりになった。けれど、彼はそれをあまり気にしたことがなかった。彼は頭も賢く、なにより器用だった。食糧を調達することも、安眠できる寝床を確保することも、彼にとっては造作ないことだった。
次第に、彼は、いろんな人間の家に、気まぐれに、ひょっこりと顔を覗かせては、短い時間、可愛がってもらうという術を身に着けた。彼は、人間と長く暮らすのが好きではなかったから、このくらいの距離感がちょうどよかったし、何より、寝床や食糧のためにあくせく動き回る必要がなくなって、生きるための手間がぐっと省けた。
ある日、よく通っていた老女の家で、与えられた餌を静かに食べていると、突然、後ろから怒号が鳴り響いた。鬼の形相をした年老いた男が彼に近づき、彼の首根っこを掴んだ。老女が慌てて、男を止めに入ったが、男は聞く耳をもたなかった。男は彼を自分の車に乗せると、長い時間走らせ、そして、遠い場所までやってくると、彼を捨てた。
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