146 / 180

第十七章 静と死③

 しばらくすると、彼の身体は元通りに回復した。彼は男の家を出て、あらためてこの土地を知るために、歩き始めた。地理を知り、仲間と出会い、情報を共有し、自分に懐く人間を、何人も見つけた。そして、たまに、ふと思い立っては、男の家に足を運ぶこともあった。  男は、不思議な人物だった。こうして彼を受け入れてくれる人間は皆、たいていが動物好きで、彼が遊びに来れば、たちまち可愛がってくれた。が、男は、彼が部屋にやってきても、構うことを全くしなかった。彼のことを特別好いているようにも見えなかったし、だからといって、彼を邪険にすることも、なかった。長い時間、人間と一緒にいるのが苦手だった彼だが、男と過ごすこの空間だけは、なぜだか全く平気だった。男のいる和室の隅で眠りにつくのがなにより心地よく、彼が男の部屋で過ごすときの、お決まりの日課になった。

ともだちにシェアしよう!