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第十八章 罪人③

 翌日になって、警察が福本の元へやってきた。九月一日の朝、大家の老年爺が家賃徴収のため青年の部屋を訪れたが、何故か扉が開いていた。ドアの隙間から声をかけても返事がなかったため、即座に部屋に入った。そこで、青年が血まみれで息絶える姿を発見し、即座に警察に連絡した――警察は青年の部屋を見るなり、すぐさま事件だと判断し、包丁についていた指紋から、福本が容疑者として浮かび上がり――ここらへんの流れは彼の想像通りだった――そして、警察署で、事情聴取を受けた。  福本は説明した。自分は、彼にずっと、殺されそうになっていたのだと。彼の青い瞳は、四六時中自分を監視していて、いつ何時も自分を見下し、福本の自尊心を粉々に砕くどころか、福本自身を喰い尽くそうとしていたのだと。だから自分が殺される前に、青年を殺そうとしたのだと。刑事は難しい顔をして福本の話に聞き入っていたが、福本にとってはそれが真実だった。  ただ、最終的には殺人未遂として取り扱われ、福本は九年の服役を命じられた。ニュースにも新聞にも取り上げられていないが、どうやら青年は、腹からの出血多量で息絶える前に、隠し持っていた拳銃で、自らの頭を撃ち抜いたらしい。一つ下の部屋にいたというのに、福本はまったく気が付かなかった。(あのときは、とにかく頭の中が真っ白で、焦燥感と恐怖心に押しつぶされそうだったのだ)

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