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第十八章 罪人⑤
不思議な偶然だ――と、福本は、思う。今日は八月三十一日――ちょうど、青年を殺そうとしたあの日なのだ。壁にかけられた時計の針は、もうすぐ日付を超えようとしている。出版の祝いとして、ささやかながら缶ビールをコンビニで買い、ぐびぐびとそれを飲み干す。
福本の頭にアルコールが回ってくる。あぁ、気持ちがいい。酒を飲んでいるときだけは――母の肉片も、あの冷たい青い瞳も、彼の頭からは消え去った。全身が心地よい高揚に包まれていく。あぁ、眠い。もういっそ、このまま寝てしまおうか――あぁ、まだ風呂に入っていない。でも、いいか――今日ぐらい、少しばかり怠惰に過ごしたって――
――ピンポーン、と、ベルが、鳴った。
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