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第十九章 青の時間⑥
第一印象の通り――祈は、やはり、不思議な青年だった。彼は碧志がそれまでの短い人生の中で出会ってきたどの人間とも違って見えた。彼の瞳が青色で珍しかった――なんていう、単純で分かりやすい理由ではもちろんない。もっと別の――何か、碧志の心を掴んで離さない――そういう引力が、祈という青年にはあった。
碧志は当初、自分がなぜ祈という人間にこれほどまでに執着するのか、自分でもその原因がはっきりと分からなかった。けれど、彼と長く時間を過ごしていくうちに――その理由が、徐々に分かってきた。
彼はいつも十字架のネックレスを着けていた。ボロボロで、けれど彼にとってとても大切なものであるということが、彼が何も語らずとも、幼い碧志にもよく分かった。あの日、拾って手放さなかった自分の直感は間違いではなかったのだな、と碧志はひそかに思った。きっとあの十字架は、彼の元に戻りたがっていたはずだ――でなければ、きっと碧志は捨てていた。ゴミ同然のそれを、そうさせなかったのは、あの十字架と彼が、それだけ深い過去と絆で結びついていたからなのだろう。
――あのネックレスが、祈が誰から受け継いだものなのか、未だに碧志は知らない。彼は、自分の過去をあまり話そうとしなかったし、逆に、碧志自身のことにも積極的に触れようとはしてこなかった。そんな距離感が、あの事故以来、他人からは見えない虚無と絶望を背負って生きる碧志にとって、四六時中警戒している心のガードをほんのわずかに、ゆるめられた。ゆるめてもいい、と自分に許可することができた。だから、彼の隣は安心できたし、なにより――心地よかった。
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