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第十九章 青の時間⑦

 彼は孤独な人だった。彼の色んな面を知るたびに、どことなく――そう感じた。でも、碧志にとって、彼は、とても優しく、そして――誰よりも、美しく見えた。孤独を抱えて生きる彼は、同じく孤独に打ちひしがれていた碧志の心をそっと抱き締めてくれた。今までどんなに周りから慰めや労りの言葉をかけられても全く響かなかった。けれど、祈は――祈の言葉だけは、碧志の心をやさしく揺り動かして、全身の細胞に染み渡っていった。たぶんそれはきっと、彼もまた孤独と絶望を誰よりも知っていて、碧志と同じ苦しみや葛藤を抱えて生きていたからだろう。  彼は、よく窓から見える景色をスケッチブックにデッサンしていた。碧志は、彼が鉛筆を持ち、真剣な面持ちで指先に感情を乗せて絵を描く姿を、こっそりと見るのが好きだった。放っておけば、彼は何時間でもデッサンしていた。その姿を飽きずにずっと眺めていたせいで、『青』の読書がなかなか進まなかったというのも、ある。

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