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第十九章 青の時間⑧

『青』は、つかみどころのない不可思議な物語だった。十三歳の少女・哀衣がある日、青しか視認できなったこときっかけに、彼女の人生の歯車が少しずつ嚙み合わなくなっていく。最初は周囲の理解を得られず、異常者扱いをされていた哀衣。けれど、彼女が描いた絵画をきっかけに、世間に認知され、彼女は過剰に注目を浴び、彼女の絵は目が飛び出るほどの高値で売れるようになる。家族は喜び、世間は哀衣を天才だと称える。けれど、彼女はちっとも幸福そうには見えなかった。少なくとも、初めて碧志が読んだときにはそう感じられた。  ストーリー全体を通して、仄暗い雰囲気が漂っていて、最後、哀衣はどうなるのか――とても気になった。そして、この物語を描いたのが、祈だと知ったときは、心底驚いた。自分がかつて憎んだ才能ある顔も知らない若者が、まさか祈本人だとは思いもよらなかった。純文学だったので、子供の碧志にとっては、読んでもいまいち意味が理解できなかったり、その意図がつかみきれない曖昧な描写もあったが、それでもこの『青』の作者が祈だと知ると、碧志の心には、俄然、物語の最後まで辿り着きたい気持ちが芽生えてきた。読み終えたら、まず祈に感想を言おう――そう思っていたのに、彼は、碧志が『青』を読了するより先に、あっさりとこの世から姿を消した――「史上最年少芥川賞受賞」という、輝かしい称号を手にしてしまったばかりに。

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