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第十九章 青の時間⑪
――あまりにも信じられない現実だった。呆然と、脳が真っ白になった。
だって――自分が昨日、彼からもらった青い絵を抱きかかえながら眠っていたときも、朝、子どもたちと一緒にご飯を食べていたときも、始業式で校長先生の話があまりに長くて、呑気にあくびをしていたときも――彼は、もう、この世にいなかったのだ。
『だいじょうぶ! イノリがぴんちのときには駆けつけるよっ!』
いつか発した、己のひどく無責任な言葉が、碧志の脳内を掠めた。
あれだけ彼のことを守りたいと思っていたのに、自分は、気付きもしなかった。何か不穏な予感や、胸のざわつきや、虫の知らせのようなものも――無知で無能で無力な自分は、何も、感じ取れなかった。何も、できなかった。彼を、守ることすら、できなかった。
――一体、自分は何のために生きていたんだろう。
その瞬間、自己に対する憤怒と嫌悪と殺意が、碧志の体じゅうを駆け巡った。叫び出したかった。殺してやりたかった。もしも碧志という人間がこの世に二人いたのなら、彼は彼の分身を、瀕死寸前まで追い込むほどに、殴っていただろう。刃物があれば、全身をめった刺しにしていただろうし、憎しみのあまり、その首を絞めて、自らの息の根を止めていたかもしれない。
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