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第二十章 神への祈り①

 砂浜に一歩足を踏み入れると、碧志の身体に突風が吹き付けた。思わず顔を顰める。地底からの唸りのような轟音と、この世の全てを飲み込もうとする巨大な闇の海が、目の前に広がった。  碧志は知りたかった。『青』の物語――その最後、主人公である哀衣は、何故、自分の身を夜の海に委ねたのか。初めて読み終えたときから、その疑問が、まだ幼かった当時の自分の心のしこりとして、今の今まで、深く、残り続けた。何故、あの人はああいう形で物語を締めくくったのか。どんな想いで、何を見て、何を感じて、何を伝えたくて――あのラストを(えが)いたのか。  湿った砂浜を踏みしめ、真っ暗な海へと近づいていく。今日は特に風が強いのか――ときおり、身体を煽られそうになるほど、潮風の流れが、酷く、強い。まるで哀衣が感じていた悲しみや絶望を、代わりに叫ぶように――砂浜に立つ碧志の身体に、訴えかけてくるようだった。  その痛々しい風を感じながら――碧志は目を瞑った。

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