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第二十章 神への祈り②
しばらくそうしていると、身体の端々から、徐々に沸き上がってきた。それは、かつての、幼い頃の碧志には理解しきれなかった――哀衣の感情そのものだった。
――嗚呼、そうか、そうだったのか。彼女は――
「あ……うっ、はぁ」
碧志の口から、嗚咽が、漏れる。突然、こみ上げてきた感情が溢れて、溢れて、止まらない。幸福感と悲壮感が碧志の中でぐちゃぐちゃに入り混じって、全身が、がくがくと、震える。足に力が入らなくなり、碧志はその場に崩れ落ちた。碧志の瞳から涙がぼろぼろとこぼれてゆく。頬を伝い、首筋を流れ、彼の服に、そして、足元の暗い浜辺に跡を作る。止まない雨のように、その液体は彼の心を幸から闇へと濡らしていく。血に染まった手で、碧志は顔を覆った。彼の上着の胸ポケットから、血まみれの包丁が滑り落ちた。
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