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第二十章 神への祈り④

「イノリ……っ」  会いたい。会って、今度こそ、彼を抱き締めたい。そして、今度こそ、今度こそ、あなたを孤独に追いやって、闇へと(いざな)う悲劇――その全てから、あなたを、守り抜いてみせるから。 「っ、僕……二十歳になったよ」  ――いつかの、約束。 『じゃあ十年後! 二十歳になったら僕に守らせてくれる?!』  ――果たせなかった、約束。 『……そのとき俺が覚えてたらな』  震える声で、碧志は力なく微笑みを浮かべ、呟いた。 「もう、本も……自分で買えるんだ」  ――大人になって、自分の金で、あの人の本を全て買い揃えた。あの人の話は、どれも、悲哀を帯びた美しい物語ばかりだった。  繊細で、独創的で、圧倒的で――けれど、人々の記憶の奥底に眠る感情を想起させるような共感性と、己が隠していたはずの陰鬱な何かに、そっと背後から触れてくるような、悪寒、慄きと恐怖、不快感――蠱惑的な言葉の操り方。この世でただ一人、あの人にしか生み出せない――ひどく、美しくて、孤独で、魅惑に満ちた物語。

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