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第二十章 神への祈り⑦

「……ねがい……っ、会わ、せて」  十字架を両手の中に閉じ込めながら、碧志は、小さく呻いた。父も母も、友も、妻もいらない。だから――  ――どうか、どうか。 「――あっ!?」  手の中に収めていたはずの十字架が、突風で闇の海へと吹き飛んでいった。 「ま、まって!」  碧志は立ち上がって、飛んでいった十字架のあとを追った。ザブザブと、冷たい海水に足が浸かる。が、そんなことは構わず、碧志の意識は十字架にしかなかった。足場がいきなり深くなる。がくんと身体が滑り、腰まで水が迫ってくる。それでも、碧志は一心不乱に追い続けた。十字架のネックレスを。祈が最期――自分に遺してくれたものを。 「――行かないで!」  碧志は、叫んだ。そして、滑り落ちた。彼の叫びは、夜の闇に飲み込まれ、そして一瞬のうちに、消え失せた。

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