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第二十一章 九月の景色①

 天高く登る太陽が、碧色の海ときらめく砂浜を美しく照らし、雲一つない鮮やかな青空を、鳥が何羽も連なりながら、空に弧を描くように、優雅に泳いでいた。  三千栄(みちえ)は、夫と共に朝の海辺を歩いていた。彼女の手にはゴミ袋が握られている。海の近くに住む三千栄たちは、毎朝毎晩、こうして砂浜を歩き回るのが日課だ。主に朝はゴミ拾い。夜は、パトロール目的だ。若者が旅行がてら浮ついた気分で夜の海にやってきて、波にさらわれる事故も珍しくないため、特に夜のパトロールは重要である。夜の海は危ない。長年この海街に住んでいる三千栄でさえ、時々、我を忘れ、真っ黒な水面に引きずり込まれそうな感覚になる。  しかし昨晩、三千栄と夫は、夜のパトロールに出かけられなかった。夫の息子夫婦が遊びに来ていたのだ。小学生になったばかりの双子の孫が、帰り際に泣きじゃくり、駄々をこねたため――昼過ぎに帰る予定だったのが、結局は夜遅くになって三千栄の家をあとにしたのだった。昨晩は風がかなり強かったので、海の荒れが心配だったが――今朝のこの穏やかな海の様子を見ると、何事もなかったようで、三千栄の心はひどく、安堵した。 「……なんだこれは。おもちゃか?」  夫の声に、三千栄の足が止まる。夫の拾い上げたそれを、三千栄は覗き込んで観察した。

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