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第6話
「え?」
俯いていたはるはゆっくりと顔を上げ、唖然とする俺に笑ってみせる。さっきまでいたあの茶髪の先輩と付き合ってるんじゃないのか…?
「いや、彼女と別れたって…こないだの階段で会った時に一緒だった女子は?」
「え?…あぁ、真由は前にも言ったと思うけど、好きで付き合ったわけじゃないから…彼女未満のセフレ……みたいな?」
「付き合ってはいない…と?」
「一応彼女…かな?正直群がってくる女子たちにうんざりしてたし、真由は付き合い長いから…その辺は理解してくれてるんだよね。でも聞いて!最低なこと言ってるのはわかってる!だからちゃんと関係終わらせたんだ」
「イケメンは何しても許されるんだな…」
いくらモテるからと言って女にダラしないはるに少し呆れた。他にも知らないことは沢山ある…興味があるからって理由で俺を誘ってきたけど、それにしては慣れてたし…男に対してもだらしないんじゃ……
頭の中で気になる事がぐるぐる回って考え込んでいると、はるが俺の顔をのぞきこんできた。
「…んだよ」
「怒ったかなーって思って」
「別に俺には関係ないし…それより、真由…先輩なの?じゃああやちゃんって…」
「ん?俺のあだ名」
「あやちゃん…?」
「え、やめて?あやちゃんって呼ばないで」
はるは何故か急に不機嫌になった。
「ゆうくんには はる って呼んでもらいたいの!だからあやちゃんはやめて」
「えぇ〜…あだ名なら別に」
「ゆうくんにはみんなと違う呼び方で呼んで欲しい…」
ーーーえーなになに…なんで俺だけ特別!みたいな言い方すんだよ…ずるいだろ…
「…わかった。はる」
「へへ、はるって呼ぶのゆうくんだけだから…改めて呼ばれるとちょっと照れるね…」
頬をほんのり赤く染め、照れながらも嬉しそうにそう話すはるの姿に胸がきゅっとなる。俺の頭と心はエラーでも起こしてるんだろうか。女ったらしのコイツが可愛く見えて仕方ない。
「ゆうくん?とりあえず、帰ろっか。」
「あ、うん」
優しい笑顔で差し出されたはるの手をとり立ち上がると、手を繋いだまま歩き出す。誰もいない校舎を男同士で手をつなぎながら歩く…いけない事をしているような気になって少しだけ胸がざわついた。
「はる……手…」
「ねぇ、ゆうくん……付き合おっか。」
こっちも見ずにサラッと言い放ったはるの言葉。正直その言葉を信じていいのか分からなかった。確かに俺の気持ちははるが好きだとハッキリわかった。でもコイツは?こんなフラフラしてるのに付き合って結局あの女の子みたいに恋人未満のセフレなんてオチは流石にショックだ。
「……考えとく」
すぐに返事なんかできる訳もなくそう答えると、その言葉に一瞬はるの体が固まったように感じた。でも、はるは何事も無かったかのように前に進む。その間も俺の手はしっかりと握られたままだった。
「はる、ここでいい。家すぐそこだから」
「あ…そっか。じゃ…」
結局その後も俺の家の近くまで手を繋いでいた。はるは躊躇いなく手を離し帰ろうとする。そこで俺は思い出したようにはるの背中に声をかけた。
「あ…はる!!!!連絡先、教えて!!」
「え?あ、そう…だね。うん!」
一瞬戸惑ったように見えたけど、すぐに表情が柔らかくなったはるを見て少し安心した。
「はる、急に会いに来なくなるから…」
「ふふ、なにそれ…ゆうくん俺に会いたかったの?そんなこと言われたら俺、毎日会いに行くかもよ?」
「それは、別に…いいけど。」
連絡先を交換し確認していると、ボソッとはるが何かを呟いた。
「…本当はこんなはずじゃなかったんだけどね」
「ん?」
「なんでもなーい!いつでも連絡して!あと、明日の昼一緒に食べよ?」
「あ、あぁうん。連絡する…帰り気をつけてな」
はるは大きく手を振ると薄暗い夜道を1人歩いて帰って行った。俺はその背中を見えなくなるまで見ていた。結局なんであの人と関係を切ったのかは聞けなかったし、はるの気持ちも…わからない事だらけだ。
いつの間にかはるが気になる存在になっていた。あの日の出来事のせいだと思ってたけどきっとそれだけじゃない。女の子達といる時のはるは男だけど、俺といる時はちょっと雰囲気が変わる気がした。それが俺に気を許してくれてるんだとしたら…そう考えるだけで胸の奥が熱くなるほど嬉しいと思ってる自分がいる。
ーーー先に惚れた方が負け…だよな。
俺はその日から自分の気持ちに素直になろうと決めた。
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