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第0話~はるside~
ーーー今思えば、あれは一目惚れだったのかもしれない。
よく好きなタイプを聞かれて"優しい人が好き"って答えるヤツがいるけど、それってその人の上辺だけを評価してるんだと思う。なんて、少しひねくれた考えを持つ俺は、誰にでも分け隔てなく優しく接するようにしていた。俺だって、嫌われるよりは好かれたい。
その日もいつものように俺の"優しさ"という仮面に騙されて群がる女子達。購買へ向かうだけでも両隣りにくっついて離れない。鬱陶しい
「あやちゃ〜ん♡」
行く先の廊下を塞ぐのは黒瀬真由(くろせまゆ)。今までで1番付き合いが長い…セフレ。一番気兼ねなく接してくれて、気を使わずに済むから女子の中では真由は特別仲がいい。いつも俺に群がる女子を追っ払ってくれるから何となく彼女を受け入れてきた。
「ほ〜んと、あやちゃんって目離すとすぐ女の子に囲まれちゃうよね〜」
「そう?」
「そうだよ〜!!」
そんな会話をしながらいつものように屋上に向かう。その時廊下でふわっと何か甘い香りがした。女子が使うような香水とは違う、キツくない爽やかな香りに惹かれ振り向こうとすると、隣を通った男子と一瞬目が合った。すぐにその男子からの香りだと気がつく。藍色の髪に鮮やかな青色の瞳、ネクタイまで青くて印象的でその瞬間は今でも覚えている。この学校は一年生が青、二年生が緑、三年生が赤のネクタイをつけているから一目で学年がわかった。
「…1年か……」
「あやちゃん?いこ?」
「あ、うん」
さっきの男の子の存在が気になりつつも真由と共に屋上に行く。外は穏やかな快晴で、少し風もあるので過ごしやすく感じた。端にあるベンチに腰掛け昼食を食べ終えると、真由はいつもの流れで唇の横にキスをしてきた。
「あやちゃん…お昼休み終わっちゃうよ……?」
「……ん、いいよ。」
真由は俺の言葉を合図に何度もキスをせがんできた。甘ったるい声を漏らす女の子を抱きながら、俺の頭の中はさっきの男の子の事ばかりだった。そのうち壁に手を付き喘ぐ真由の口を押えながらいつもよりも激しく腰が動くのを感じる。
ーーーあの子はどんな声なんだろ…
達した瞬間頭によぎったのはあの子の横顔だった。
俺は、1人が嫌いだ。
そのくせ、人と深く関わるのが怖くて無意識に壁を作って過ごしてきた。そのせいで誰かの特別になりたいと思っても、相手の瞳に映る俺は上辺だけの優しさで、誰も本当の俺をしろうとはしてくれなくなった。いつからか、心の奥底を覗かれるのが怖くて人を好きになること自体を怖いと思うようになっていた。
どんなに好かれても、誰かの1番にはなれない自分が虚しくて悲しくて…でも、1人でいるのは寂しくて……いつの間にか"優しい俺"を受け入れ求めてくれる人とだけ関係を持つようになっていた。
そんな中ある男の子に告白されたことがあった。その時も俺は変わらず求められれば手を繋ぎ、キスをして、触れ合う…今まではそれで上手くいっていたのに…その時、突然言われたんだ。
ーーー綾川くんは誰にでも優しくて、誰にも興味ないんだね。
悲しげな表情でそういった彼に自分の心の中を見透かされたような気がして急に怖くなった。本当は誰かのためなんかじゃない。全部全部俺が優しくされたくて、愛されたくてそうしてきた。相手の思いを利用してきたんだ。それなのに俺からは同じように愛せない。臆病者なんだ。
でも、こんな俺でも唯一真由だけは許してくれた。
「大丈夫だよ。あやちゃんが本当に好きになれる人が見つかるまで、真由がずっと隣にいてあげる。」
俺は…そんな真由の気持ちを利用して、本当の自分を隠したまま今も過ごしてる。最低だ…
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