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第0話~はるside~
あの日出会った男の子。ネクタイが青色だったから学年はすぐにわかった。でも、1年と交流なんてほぼないし、階も違う。次にあの子を見かけたのはそれから数日後…
その日、授業中にぼーっと校庭を眺めていると、あの藍色の髪の毛が目に入った。すぐにあの時の子だと気がついて、誰にもバレないようこっそりその姿を見つめていた。横顔がチラッと見えると頭の中で考える。
ーーーこっち向け…一瞬でいいから……
そう願った次の瞬間、フワッと流れるような風が吹いた。風が藍色の髪をふわっと揺らす。男の子は乱れる髪を抑え、耳にかけるしぐさに俺は目を奪われる。
俺の事なんか見えるわけない、知るはずもないのにもしかしたら、また目が合うんじゃないかとドキドキした。こんな気持ちは初めてかもしれない…
何度もキョロキョロして少し視線を上げた時、男の子と一瞬目が合った気がした。その瞬間ぶわっと毛が逆立ったような、電気が走ったような…それほどの衝撃が身体中を駆け巡った。遠目からでもわかるほど整った顔立ち、あの日から意識しすぎて美化しているんだと思っていた。でも、今視界の中心にいるあの男の子はやっぱり綺麗な顔で、友人達と笑ってる。いつの間にか目が離せなくてぼーっと見入っているとバシンっと音を立てて頭に何かが降ってくる。
「いったぁ…」
「綾川、随分余裕だな?」
ふと顔を上げると満面の笑みでお怒りの先生だった。クラス中が笑い声に包まれる中、目を離した隙にあの子の姿が見えなくなっていた。
校庭で目が合った時の男の子の姿が瞼の裏に焼きついて離れない。知りたい…どんな声で話してどんなふうに笑うのか……俺はあの子がどんな子なのか知りたい一心で、後輩を伝ってあの子の情報を集めた。こういう時顔が広いと役に立つ。
名前は朔間佑斗
身長185cmで俺より6cm大きい
彼女ナシ、でも女友達は多いらしい。
この情報だけで性格は悪くないって事はわかった。きっといい感じになっても友達以上に見れないって言われるタイプなんだろうな…と勝手に妄想したりして。さて、問題はどうやって関係を作るか…
「あやちゃん?どうしたの?眉間に皺を寄せて」
授業を抜け出して一人屋上のベンチに寝っ転がっていると真由が眉間をつついてきた。
「ん〜?どうしたんだろうね、俺もわかんない…真由は?次移動じゃないの?」
「サボり…あやちゃんが階段登ってくの見えたから大丈夫かな〜って」
そっか〜と適当に返事をしてもう一度目を瞑ると真由が耳元でぼそっと呟いた。
「好きな人、できた?」
その言葉に慌てて体を起こすと目の前にしゃがみこみケタケタと楽しそうに笑う真由の姿。なんだかちょっとからかわれてる気がしてムスッとすると真由は立ち上がり言った。
「はぁ〜笑った。あやちゃん最近よくぼーっとしてるし青髪の子目で追ってるとこよく見るからもしかしたらって思ったんだよね。」
「よく見てるね…」
「あやちゃんが目立つから視界に入るのよ。それよりどうなの?仲良くなれた?」
真由はそう言いながら俺の隣にサッと座り、キラキラした目でこっちを見た。
「名前はわかった。でも、1年だしいきなり男から言い寄られてもね〜…って思って今は見てるだけ」
「おぉ、本気なんだ。」
「本気……いや…どうかな。わなんない」
「え〜?」
真由は優しい。でも、きっと俺と同じなんだ。だから一緒にいると気が楽で、寂しさも埋めてくれる。正直この居心地のいい関係から一歩踏み出すのが怖くて躊躇っていた。そんな俺に真由は躊躇いなく言い放つ。
「ねぇ、その子に話しかけてみたら?もし、怖くなったら戻っておいでよ。」
「なに、突然…」
「正直真由とずっと居てもあやちゃんは変わらないよ?どうするの?私に好きな人が出来て上手く彼氏とかできちゃったら。」
真由に彼氏…また、息苦しい一人の時間が増えるのかと思うと少し悲しい気持ちになった。
「ほら!いってらっしゃい!」
真由はいつものように楽しげに笑うと、背中を押して俺を屋上から追い出した。後押しされて学校の中を適当に歩き回る。急にこんな展開になるとは思ってなかったしどうしよう…
結局、その後の授業はずっと上の空で頭の中はどう話しかけるか…それだけだった。見つけたところで…どう接すればいい?”優しい綾川遙陽”が人から好かれるのは簡単だけど、”俺”が好かれるにはどうしたら…
昼休み。屋上へ向かう途中悩みながら歩いていると、廊下の窓から見える中庭にいる朔間佑斗が目に入った。その瞬間心臓がドクンと跳ねる。自分でも驚くほど、俺の頭の中は なんでもいい、どうにか印象に残りたい それだけだった。
気がつけば中庭へ向かっていた。中庭の近くまで来ると息を整え影からこっそり眺める。やっぱり俺はあの顔が好みなんだなと改めて思った…ドキドキして高鳴る鼓動に耳をすませると、まるで恋でもしてるようで変な気持ちになった。
ーーーあぁ、どうしよ…勢いで来たのはいいけど……印象に残るには…いっそ嫌われるような態度の方が……あーもういいや。
テンパる頭を横に振って考えるのをやめた。そして、朔間佑斗…ゆうくんのもとへ向かった。
「ゆうくん、俺とせっくすしない?」
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