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3-6.現地2日目は屋外プールへ

朝目が覚めると見知らぬ部屋に居て一瞬戸惑った。 そうだ……僕今旅行してるんだっけ…… 身体を起こす。匠実は夜中に一度泣いて目を覚ましたけど、抱っこするまでもなく撫でてあげるだけでまた眠りに就いてそのまま朝まで起きなかった。 宗吾はまだ眠っているので物音を立てないようにそっとベッドを降りる。宿泊しているのはベッドルームとリビングルームが別になっているタイプの部屋なので、リビングの方の窓からバルコニーに出た。 「うわ……青い……!」 昨日は日が落ちそうな時間帯に到着したため、黄金色に輝いている海しか見ていなかったのだ。 朝日を浴びたビーチの景色はまさにイメージする南国そのものだった。視界を占めるのはエメラルドグリーンの海、白い砂浜。朝から散歩する人もちらほらと見える。 今まで海に近い場所に住んだことがなかったし、子どもの頃から貧乏生活だったので海に遊びに行った記憶もない。 この旅行が決まって気づいたんだけど、僕って泳げないんだよね。 学校の体育の授業で水泳もあったけど、回数が少なくて結局ちゃんと泳げるようにはならなかったのだ。 匠実は泳げるようになってほしいなぁ。 暖かく柔らかな風が頬を撫でていくのを感じながら手すりに寄りかかってぼーっとしていたら、背後できゃっきゃと笑う匠実の声がした。 振り返ると、我が子を抱いた宗吾が立っていた。 「おはよう」 「あ!おはよう。匠実起きたんだね」 「ああ。笑い声で起こされたよ」 「匠ちゃんおはよ~。朝からご機嫌だね」 「志信は体調どうだ?」 「あ、もう全然なんともない。ありがとう」 「じゃあ、今日は外で遊べそうだな」 「うん」 朝食は外に出て食べてもいいけど、今日は様子見ということでホテルのラウンジで食べることにした。日本人客が多いためか、ビュッフェの中には日本食も用意されており、おかゆがあったので匠実も食べることができて良かった。 レトルトばかりじゃ可哀想だしね。 もちろん大好きなバナナもカットしてあげたらよく食べた。 この日はまずホテルの屋外プールに行ってみることにした。プールサイドとビーチは地続きになっていて、そのままビーチに出ることもできる。 僕はお腹に帝王切開の傷があるため上下セットのスイムウェアを用意してきていた。皮膚が弱いので日焼け対策にもなるしちょうど良い。 匠実の水着も、現地で子供用のものが売っているようだったけど0歳児向けのサイズは少ないということで、日本であらかじめ買ってきていた。タコやエイなど海の生き物の柄入りで、着せてみたらとても可愛かった。 水遊び用オムツは現地で買えるという口コミを見ていたのでホテル近くのお店で購入した。そのお店に可愛らしいサンダルもあったので一緒に買って履かせたら、まだつかまり立ちしか出来ないのに今にも歩き出しそうに見えた。 「匠実~、水着にサンダルで一丁前に見えるな。かっこいいよ」 宗吾は目尻を下げて息子を見ている。そういう彼は綺麗に筋肉がついた上半身を陽光の下に惜しげもなく晒していた。 僕としては匠実を抱っこしている宗吾がかっこいいよ、と思ったけど恥ずかしかったので口にはしなかった。 プールといっても屋外にあり、しかもヤシの木などの植栽で彩られているうえビーチがすぐそこに見えていて南国感たっぷりだ。プールも海も初めてな匠実のため、まずは水に慣れてもらおうと思ってプールを訪れた宗吾が言う。 「プールの方は空いてるな」 多くの人はビーチの方で遊んでいるようでプールは空いていたのだ。 「だね。小さい子どもを遊ばせるのには好都合かも」 「ゆっくり出来ていいな。あそこにバーもあるぞ」 「ちょっと遊んだら行ってみようか」 匠実用に、足を入れて浮かべるタイプの浮き輪も持ってきていた。そこに入れて水に浮かべてやると、彼はきょとんとした顔で僕を見た。 「どう?匠ちゃん、楽しい?」 「ア~」 笑うでもなく泣くでもないので本人は楽しいのか怖いのかよくわからないけど、浮かんでる姿はとっても可愛くて笑えた。 「可愛すぎだろ。写真撮るからこっち向けて」 宗吾がスマホで写真を撮ってくれる。しばらくぷかぷかと浮かばせていたら、なんと匠実は浮き輪の上で眠ってしまった。 「ちょっと見て宗吾、匠実ウトウトしてるんだけど!」 「え?まさか寝るのか?」 「水に浮いてゆらゆらしてるのが眠気を誘うのかな?」 「じゃあ……俺たちはバーで何か飲むか」 匠実を水から上がらせ抱っこしたままプールサイドのバーでビーチを眺めながらトロピカルジュースを飲んだ。宗吾はビールを飲んでいたけど、僕は昨夜の反省からこの旅行中はアルコールを控えることにした。 その後は日の高いうちにホテルから道路1本挟んだ向かいにある大型の免税店で買い物をした。お土産をざっと買ってしまう。大体済んだと思っても買い忘れが必ずあるから明日また来て買い足すことにすると宗吾が言っていた。旅の後半になると疲れも溜まってしまいお土産を買うのが億劫になるから先に買ってしまう主義だそうだ。 夕食はホテルからタクシーに乗って、しほりさんがおすすめしてくれた子連れでも行きやすいというアメリカンフードのレストランを訪れた。子連れ向けと言っても、店内は暗めな照明で落ち着いた雰囲気だ。キッズメニューがあるので子連れもいたけど大人っぽい内装なのと夜だからか、カップルや夫婦での利用が多かった。 キッズメニューはパスタやハンバーガー等で匠実にはまだ早いため、持ってきた離乳食を食べてもらった。こちらからお願いする前に店員さんが気づいて幼児向けのカトラリーを貸してくれて接客も好印象だ。 宗吾はステーキ、僕はシーフードのグリルを頼み、付け合せはマカロニグラタンが人気だそうなのでそれにしてみた。 クラフトビールの種類も豊富で、料理もどれも美味しくて楽しく食事できた。アルコールが入ってちょっと赤い顔をした宗吾が言う。 「子ども中心に店を選ぶと大人が満足しきれないこともあるけど、さすがしほりさんのチョイスだなぁ」 子連れで、となるとお店選びも難しいので今回はしほりさんのアドバイスが役に立った。

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