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【一也視点】6.はじめてってどういうことだ?

翌朝、俺は金子に揺り起こされた。 「先輩、起きて。もうそろそろ出ないと時間が……」 「んん……?」 「大丈夫ですか?」 俺は二日酔いでガンガンする頭をなんとか持ち上げた。 「ってぇ~~……」 「頭痛ですか?僕鎮痛剤持ってるんで飲みますか?」 「悪い、頼む」 金子はカバンの中から錠剤を出して、コップに水も汲んで渡してくれた。 ゴクリと飲み込む。早く効いてくれ…… 心配そうに覗き込んでくる金子は既にシャワーを浴びて身支度を整えた後だった。 「ごめん金子……」 「いいえ。それよりシャワー浴びるならもう本当に起きないとだめですよ」 「ああ、そうする」 俺はだるい身体を起こしてシャワーを浴びた。するとようやく目が覚めて来た。そして改めて、後輩をこんな所に連れてきたのは間違いだったと後悔の念が湧いてきた。 バスルームを出て服を着て、俺は金子に頭を下げた。 「金子、ごめん。こんなことするべきじゃなかった。本当に悪かった」 「先輩……」 「俺は酔ってるのをいいことにお前のことをここに連れ込んだ。お前にはその気もなかったんだから思い切り殴ってくれていいよ」 金子はびっくりしたように目をぱちくりさせていた。それから俺の言葉の意味を理解して悲しそうな顔をした。 「あ、謝らないでください。そんな風に後悔されたほうが辛いです。僕……昨夜も言いましたけど先輩のことが好きなんです」 「え?」 俺のことが好き?まさか、抱いてる時つぶやいてたのって本気だったのか? 「ごめんなさい。先輩はホテルに着いた時やっぱりやめようって言ったのに……僕が抱いて欲しいって言ったんです。志信さんの代わりで構わないからって」 「え、嘘だろ?そんなこと言ったか?」 バーからホテルに移動した辺りの記憶があやふやだった。 金子は寂しそうに笑った。 「覚えてないんですね……でも、初めてするのが先輩で僕は嬉しかったです」 「はじめて?」 どういうことだ? 「はい。この年で恥ずかしいけど……経験がなかったんです、今まで。だから上手くできなくて、面倒おかけしました」 金子は頭を下げた。俺は慌てて彼の肩を掴んで顔を上げさせた。 「か、金子!俺なんかに頭下げる必要なんてないから顔上げて。ていうか、セックスするのが初めてだったってこと?!」 「そうです……」 金子は恥ずかしそうに赤面して視線を逸らした。 嘘だろ、待ってくれよ。俺は酔っ払ってこいつの処女を奪ったってことか? どうすんだよ……俺まじで取り返しつかないことしてんじゃねーか。 「あ!でもそうだ。お前以前つがいがいたんじゃないのか?」 「はい。いました。でも、体の関係は無かったんです」 なんだと?もう頭が混乱してわけがわからなかった。つがいなのにセックスは無しなんてありえるのか? 「先輩、話しの続きはまたにしましょう。チェックアウトの時間です」 俺と金子は慌ただしくホテルを後にした。 ◇◇◇ 家に帰って金子の発言を思い返す。 「処女ってまじかよ……俺は馬鹿か」 セックスしてるとき、馴れてないなとは思った。だけどまさか本当に初めてだなんて…… 自分のしたことに吐き気がする。 アイツが俺に気があるってのは薄々気づいてた。それを良いことに、志信の失恋で傷ついてるのを理由にして手を出すなんて…… 「くそっ」 金子も遊びのつもりならまだ自分に言い訳ができた。一晩楽しんだだけでまた先輩と後輩に戻るだけだ。 だけど、金子は俺のことを好きだと言った。 俺は職場での金子を志信の代わりに世話してやって、懐かれていい気になっていた。更に金子の好意を利用して志信の代わりに抱くなんて最低以外のなにものでもない。 今まで自分はまっとうな人間だと思いこんでいた。 だけどちょっと酒が入ったくらいでこんなクソみたいなことができるなんて自分でもショックだった。 俺は金子に会うのが心底怖かった。 ーーーでもなんでこんなに怖いんだ? 信頼されてたのを裏切って、もう頼りにしてもらえないから? 志信の代わりとして構えなくなるからか? ーーー違うだろ。 結局俺もなんだかんだ金子のことが好きになりかけてたんだ。 それなのに順番無視していきなり襲っちまったんだよ……バカが。 今更俺もお前のこと好きだなんてどの口で言えるんだ? 「最悪だ……」

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